氷菓尽きぬこの人に何も与へ得ざりき 中島斌雄

たかが氷菓のことで、「与え得ざりき」とは。表現が大げさとは思ってしまうが、それがこの句の味わい深いところ。この人は誰だろう。暑い中をわざわざ来てくれているのだから、このひとはこんなに汗を流しているのだから、何かしてあげたい。「与えざりき」ではない「与え得ざりき」。与える事が出来なかったという悔い。上の句も「無くて」ではなく「尽きぬ」と表現されていることも見落としてはいけません。たまたま無かったのではなく、与えて尽きたのです。はたまた自分がさっき暑さに負けて最後の一つをたべてしまったのかも。それならますます悔やまれますね。氷菓をメタファーと読みたい方もあろうが、そういう無粋はやめましょう。この人を、妻、あるいは我が子のこと読むと味わい深いが、文脈からは少し無理がありそう。(『現代俳句協会ホームページデータベース』より)(北野和博)