少年の夏野にビラが降っている 秋尾敏
私が子供の頃の昭和30年代前半にはまだ、飛行機から広告のビラが降って来ることがありました。ただの特売広告だったりするのですが、ビラが舞っていたらワクワクして、拾ったらなぜか得をした気持ちになったものです。掲句は作者の現実の記憶とも解釈できます。また作者の年代とはあいませんが、戦時中の戦意高揚ビラ(あるいはその逆)を連想する人もいるでしょう。読者の想像が広がる素敵な句です。でも私がこの句に惹かれたのはどうやらさっき書いたワクワク感にあるようです。何者かからのメッセージを自分が拾ったような。「降っていた」ではなく「降っている」としたところに作者の力量の高さが読み取れます。少年の日に駆け巡った夏野。そこには今でもあの頃のビラが舞っているのかもしれません。(現俳協HP)(北野和博)