夫焼きし皿を選びぬ初秋刀魚 新井八重子
この句、うっかりすると、夫が秋刀魚を焼いて私が皿を選んでいる、と誤読しそうです。もちろん正解は、夫は秋刀魚を焼いたのではなく、皿を焼いたのです。で、問題はそこから先です。初秋刀魚だからいい皿に盛りつけたい、という気持ちはわかります。でも、その気持ちを表現するだけなら「夫焼きし」は、不要な情報です。「皿を選びぬ」で十分伝わります。でも作者は「夫焼きし」を強調することで、読者に暗に何かを伝えているようです。私は主人公が夫を偲んでいると解釈しました。なお、いつも書いているように、俳句の主人公と作者は同じではありません。(『末黒野』)2014年12月号(北野和博)