びしょぬれのKが還ってきた月夜 眞鍋呉夫
「露人ワシコフ」は、固有名詞が成功したが、掲句はイニシャルにしたことで、Kという人物が普遍化されています。この句の場合はイニシャルが成功している、俳句とはまことに厄介なものです。傘もささずびしょぬれになって還ってきたK。いったい彼女?は何に苦しんでいるのでしょう。Kのイニシャルから物語がひろがります。でも、みなさん、もう気が付かれましたね。この句には致命傷があることに。月夜に雨はふりません。月光に濡れたとか、びしょぬれは精神状態の比喩だとか、雨が降っていたが止んだとか、Kは水中で死んだとか、いろいろな解釈も成り立ちますが、すこし無理があります。残念。(『昭和俳句作品年表』)東京堂出版(北野和博)