露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す 西東三鬼

ワシコフさんは手で届かない石榴を収穫するのに、棒で叩いただけかもしれません。叫んだのも、少し気合をいれただけかも知れません。でも、読者には彼が理性的な行動をとっているようには感じられません。突然の激情が彼を突き動かしているように感じます。きっと彼の身に何かが起こったのでしょう。読者にそんな物語を感じさせるのは、作品が力を持っている証です。上の句を「ロシア人」とか「隣人が」とせず、破調にしてまで「露人ワシコフ」と固有名詞にしたことで、人生の物語が生まれました。(清水哲男『増殖する俳句HP』より)(北野和博)