花火見しひととその後会わざりき 北野平八
高校生位の時、シャガール展に行ったことがあったが、若い私にはシャガールの絵の良さが分からなかった。たびたび出て来る空中に浮かんだ花嫁を、画家の軽薄な「夢」だと思っていたのだ。年月を経て数年前にシャガール展に行って、私は自分の間違いに気が付いた。シャガールの作品は晩年の方がいい。若い頃の作品は「夢」だが、晩年の作品は「夢」ではなく、「思い出」なのだと。思い出の中だからこそ恋人が宙に浮いているのだ。あの美しい色彩も、取り戻せないが由に、記憶がそうさせているのだと。そう気づいた時、シャガールの抱えていた孤独と悲しみが、ひしひしと伝わってきた。さて。掲句は仄かな恋心を描いたものではない。これは、作者が遠い日の出来事を振り返っているのだ。小さな出会いでも、小さいがゆえに記憶にいつまでも残ることがある。(『北野平八句集』富士見書房)(北野和博)