穀象の群を天より見るごとく 西東三鬼
穀象は穀象虫。米櫃の中に棲みつき米を食い荒らす。米粒よりやや小さいが、鼻のような突起があるので、姿が象に似ています。害虫ではあるが、米櫃を動きまわる様は、どことなくユーモラスです。掲句は、小さな虫を、それに比べて大きい人間が、巨人の視点で見たという意味ではありません。それなら蟻の行列でも句が成立するし、類想句は多々考えられます。掲句は穀象の形がポイントで、まるで象の大群を空から眺めている心地という意味です。小さな世界から広大な世界への転換の見事さ。余談ながら、近景写生の見事さから、私はうっかり素十作と間違って記憶しておりました。「ごとし」と終止形にせず、「ごとく」と連用形にしているところに写生句にしたくない作者の意志を汲み取るべきかなあ。(『現代俳句歳時記』実業之日本社)(北野和博)