夏帽子人それぞれの翼かな 安田優歌

夏帽子の鍔がいくら広いからといって、翼とは形が違い過ぎ。比喩に無理があります。でも、掲句の場合はその無理やり感がいいんです。読者には帽子に羽が生えて、羽ばたいているイメージが浮かんできます。あら、不思議、シャガールの絵のよう。青空に帽子を被った人が次々と舞い上がってきます。「翼」を「希望」と読んだ人もいるでしょう。比喩とは、新しいイメージの回路を、さりげなく読者に刷り込む効果もあるのです。(『京鹿子』2012年8月号)(北野和博)