愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 蕪村
主人公のもつ「愁い」とは、如何なるものなのか。また、主人公はなぜ岡にのぼったのだろう。そんな事を考えていたら、この句の魅力の秘密が分かった気がした。この句の「愁ひ」は、憂鬱や不安といった重たいものではない。そんな重たい気分ならとても散策する気持ちにはならない。主人公は、ある種の理由なきもの悲しさ、虚しさに囚われたのだ。その気持ちを晴らそうと散策に出て見晴らしの良い岡を目指した。しかし、主人公の気持ちを救ったのは岡からの眺望では無く、意外にも道端の小さな野ばらだった。人間の心の襞を優しく見つめた作品である。(北野和博)