花種蒔く母よ小遣くれし手つき 林昌華
野菜の種ではなく、花の種を蒔いている。つまり農業をしている光景ではなく、庭の花壇での園芸を楽しんでいる母の姿です。では、小遣いをくれたのはいつ?それは遠い昔です。花壇で穏やかに花作りを楽しむ母の所作を眺めながら、主人公は幼かった頃の事を思い出しているのです。上の句を「種を蒔く」とすれば、上の句の字余りは回避できますが、野菜の種を蒔く、つまり畑仕事をしているととれてしまう。畑仕事と解釈すると小遣いもらうのも「今」となってしまうから不思議です。そのため作者はあえて字余りの季語を選んだのでしょう。(『現代俳句歳時記』実業之日本社)(K.K.)