閉まりたる戸の奥に音夕桜 桂信子

 

 

昼間銀行に行けない私は仕事帰りによく銀行のATMを利用する。ATMの部屋はひと気がないが、閉ざされた扉の向こうには銀行のカウンターがあって、まだ大勢の銀行員が仕事をしている。理屈ではわかっているのだが、なかなかイメージできず、私は銀行のATMは都会でいちばん寂しい場所だと思っている。さて、前置きが長くなったが、掲句について。外は夕桜の静逸な世界。戸の奥では何の音だろうか。読者に開くすべはないけれども、閉まった戸から物語が拡がっていく。(『桂信子全句集』ふらんす堂)(K.K.)