花冷えや悲しい色の夢をみる わたなべじゅんこ
悲しい色とはどんな色だろう。青、水色、それとも紫かしら。いえ、この「色」は具体的な色彩を指しているのではない。悲しい夢というところを、言葉を置き換えているのだ。こういう言葉の感覚だけで句を作る手法は、往々にして歌詞的、観念的な底の浅い句になりがちなのだが、掲句は全体の言葉のバランスが良く、それぞれの言葉が突出することなく自分の仕事をしっかりとしている。それゆえに、花冷えの日差しの淡い質感がしっとりと浮き上がってくる。ちなみに「夢」は、眠っている間に見る夢と、憧れの意味の「夢」がある。夜見る「夢」に限定するなら「夢を見た」と過去形になるはずだが、「みる」と現在形である点にも注意して鑑賞したい。(句集『鳥になる』2000年蝸牛新社)(K.K.)