雛まつる壁裏昼の物音す 桂信子

 

 

壁の向こうの物音が気になる、という事は、どうやら自宅ではなさそうです。訪問先の雛の間で待たされているのでしょう。気が張っているので、壁向こうの人の気配が気になります。雛という静的で無機質な人形と、壁の向こうの動的な人間の存在感。そして何よりも待っている主人公の緊張感、息遣いが聞こえてきそう。なお、掲句を集合住宅と読んだ方には、飴山實の「われの凭る壁に隣は雛かざる」。『少長集』(1971)というのもあります。信子の句の持つ自己の存在感やアウェイ感とは全く趣が違って生活感があります。作者が住む社宅でしょうか、お隣とは普段から呼んだり呼ばれたり、お付き合いがあるのでしょうね。なお、信子の句は1969年作。(句集『新緑』1973年)(北野和博)