春の日やポストのペンキ地まで塗る 山口誓子
誓子は想像で句を作らない。ほとんどの句は実景をもとに作られている。この句もおそらく実際に見た光景であろう。凡人ならやり過ごすところだが、ペンキがはみ出ているのを見過ごさず、みごとな句に仕上げている。光景の中にいわゆる情緒的風情とはひと味違う硬質なリアリズムを感じる。「 春の日」は掲句の場合、「春の陽」ではなく「春の一日」と解釈した方が味わいがある。陽と読むとやや写生に落ちる感がある。春らしいとある日に、ふと目にした光景。季語とのマッチングもこの句の読みどころ。(句集『青女抄』1949年)(K・K)