豆腐屋の灯に傘ひらくささめ雪 北野平八

 

 

「灯に傘ひらく」は、通行人の傘の事ではない。灯に向かうように作者が傘を開いたのだ。つまり作者は豆腐屋の向かいの建物で所用を終えて、今外へ出る所なのだ。まだ、夕暮れまでまだ時間があるはずだが、豆腐屋に、はや灯りが点っている。雪が降ってあたりが薄暗くなっているのだ。所用で暫くいた間に、外の様子がすっかり変わっている。書かれてはいないが、この時間の経過を読み取って欲しい。平八は細やかな写生を得意とした俳人である。 (『北野平八句集』1987年富士見書房)(K・K)