掛けてある鏡の暗し冬座敷 倉田紘文

 

 

部屋ではなく、鏡の暗さを詠んでいる。鏡が明るければ自然と視線が行くが、目立たない暗い鏡に、なぜ主人公の視線が行ったのか。ここが読みどころだが、どう読むかはあなた次第。鏡が暗いということは窓が暗く、座敷が暗く、照明が点いていないということ。鏡に自分のシルエットが映っているかもしれない。そういう状況で主人公は何をしていたのだろう。鏡が暗いと感じるということは、主人公には、以前この部屋の鏡が明るかったという記憶があるのかもしれない。私は故人宅を訪ねたシーンを想像してみたが、それ以外にもしっくりくるシチュエーションは沢山ありそうだ。物静かで落ち着いた雰囲気の作品である。(『現代俳句歳時記』ハルキ文庫)(北野和博)