抱き移す浴衣の中に母ありぬ 宇都宮沢

 

 

私もかつて要介護の母を持つ身だったので、この感覚は良くわかります。作者も介護に慣れていないのです。初々しく、たどたどしく母を抱き移すから浴衣の中に母がいるという、生身の感覚が生まれてくるのです。痩せた母の軽さが伝わってきます。手慣れていくうちにこういう感覚は失われていくのですね。なお、掲句は亡骸を棺に移す場面とも取れなくはないが、私は「抱き」の部分に母の体温を感じました。(『現代俳句歳時記』実業之日本社)(K.K.)