何もなき壁を照らして梅雨の燭 桂信子

 

 

人間は目立つ物に目が行きがちである。何もない壁とそれを照らす灯。そんな地味な光景を、誰が俳句にしようと思うだろう。そこに美を見いだし作品に仕上げたのは、作者の高い精神性の産物である。何もないはずが、壁についた染みまで目に浮かんでくる。「梅雨の」がよく効いている。(句集『草影』ふらんす堂)(K.K.)