滝の上に水現れて落ちにけり 後藤夜半

 

 

この句を読んで、「枯滝の上に突然水が流れて来た」、と解釈する人は居ないでしょう。でも、文法的にはそう解釈するのが正しいのです。それを、水が累々と流れている中の新しい水のひとかたまり、と読者が読み取った時点で、この句の成功は約束されたのです。滝の上から下そして滝つぼもそれに続く川も、みんなひとつの水なのに、その観念が「滝の上に」の一言で打ち破られたのですから。そうすれば、もうしめたものです。読者のイメージの中で、そのひとかたまりの水は、重力に従って滝を落下してゆきます。視線のダイナミックな移動が起きるのです。滝の音さえ聞こえてきそうです。こういう句は狙えるものではありません。試行錯誤していて、捉えた瞬間をキャッチする力が大切なのです。(『昭和俳句作品年表(戦前・戦中篇)』東京堂出版)(北野和博)