父を怖れて太平洋を泳ぎおり 摂津よしこ

 

 

具体的な出来事は書かれていない。しかし、この句は一般的な、思春期の親への反感を書いたものではないようだ。もしそうなら、「父怖れ太平洋を泳ぎけり」となるはずである。上の字余りや、結びの「おり」により、具体的な出来事が暗示されている。それは作者が太平洋へと広がる海をひとりで泳ぐほど、孤独と孤高の精神をもたらしたのだ。もちろん、事実とは限らないが。(『夏鴨』1985年)(K.K.)