終戦の記憶の底を紙魚走る 水野恒彦

紙魚とは本棚や便所に棲みつく小さな虫。動きが速すぎて目にも留まらないが、正視すると舟虫とげじげじを足したような形で、相当気持ちがわるいらしい。さて、掲句は終戦の日に紙魚を見た記憶とか、紙魚を見て終戦の日の記憶が甦った、という解釈もできる。でも私は、終戦の日の記憶を思い浮かべたら、その画面を縦横に紙魚が走るようなイメージが湧いてくる、そういう風に解釈したい。ちょうど、古いフィルムに雨のような斑点が走るように。戦争への複雑な思いが記憶に紙魚を走らせるのだ。(『槐』2017年11月号)(北野和博)