扇風機大き翼をやすめたり 山口誓子

 

 

自解によると、この扇風機は、天井に取り付けた大きい四枚羽のイメージしたものという。回転がゆっくりになり、大きい四枚の翼が見えてきてやがて静止する様子を描いているという。作者はそう読んで欲しいのだろうが、自解ときには自壊となる。作品の解釈は読者に委ねなければならない。私はこの扇風機を卓上型と読みたい。この句の面白さは、小さな羽を大きいと捉えた点によるところが大きいと思うからである。戦前の鉄製の小型の扇風機を思い浮かべて頂きたい。小さくとも羽がゆっくりと回転を落としてゆく様は、実に重量感がある。ちょうど映画撮影でミニチュアのセットを壊す時に、スローモーションで撮影すると本物に見えるのと同じ理屈である。現実には小さくても、イメージとしては大きい翼である。また、「やすめたり」には、昼の暑さが少し和らいだ安堵感と、扇風機へのいたわりの念が感じられる。(『山口誓子自選自解』講談社)(K.K.)