辞書のなかをレモンころがる暮らしかな 京武久美
「檸檬」は日本では秋に収穫されることから、秋の季語になっているが、年中店頭に出回っていて季節感がない。こういう日本的質感、季節感に頼ることができない季語こそ、俳人の実力の見せ所であろう。掲句の主人公(作者ではない)は翻訳を生業としているのだろうか。仕事に追われる日々の中、机の上に積まれた辞書の間をレモンが転がっている。言わずもがな、机の辞書は欧米語の辞書である。もちろん、辞書の活字の中にも、zitrone、citron lemonの文字が転がっている。(『現代俳句協会ホームページ』データベースより)(北野和博)