記憶にも風景のないなめくじり 松宮梗子

 

ナメクジの記憶を辿れば。確かにナメクジの体近辺の映像は浮かぶが、それ以外は近景すら浮かばない。マクロレンズで撮った写真の様。これが他の虫なら、エピソードを伴って前後の風景の記憶が立ち上がるのだが。作者はナメクジで句を作ろうと記憶を辿っていて、このことを発見したのだろうか。俳句は発見、という主張は実作ではあまり意味をなさないが、この句に関しては認めざるを得ない。(『現代俳句協会編 現代俳句歳時記』学研)(K.K.)