死ぬわれに妻の枕が並べらる 林田紀音夫

前提なしに読むと夫婦心中の句になるが、その解釈では文脈が当たり前すぎて面白くない。ここは作者の心象風景を作品にしたと読みたい。恐らく妻は夫が死にたいと願っているとは、微塵も気づいていない。いつもの様に夜の支度をしているのだ。そう読むと死と生がくっきりと作品から立ち上がってくる。実はこの句は胸部疾患という余計な前書きがあるのだが、それでは伝統俳句的な生活記録となってしまう。俳句に前書きはいらない。(『昭和俳句作品年表戦後篇』東京堂出版)(北野和博)