中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼

有名句です。桃を日々の句を鍛錬した果実と解釈しようとする向きもありますが、それば無理。どう読んでもこの句の桃は女体です。肉体的な衰えにより遠のく青春と性への渇望を比喩的に描いた句ですが、かなり露骨で、哀愁は感じられません。それが三鬼らしいといえばらしいのですが、正直、突出した出来栄えとは思えず、なぜ評価されるのか、私にはわからない。誰でも分かって、読み解いた気分になるからでしょうか。そんなことってよくあるのが俳句界の不思議です。実は同時期に石田波郷も「白桃やこころかたむく夜の方」を作っており、こちらの方はやや情緒的。本歌、返歌の関係かも知れない。いやはや、おやじはいつの時代も元気なものです。『現代俳句歳時記』実業之日本社)(北野和博)