急坂は片陰も無し海はるか いしだゆか

 

 

下り坂で、遠くに海が見えているのだろうか。写生句ならそう読むのが自然だ。しかし私はあえて、上り坂と読みたい。すると、今は見えないが、長い坂を上がり切ったら海が見えるということになる。主人公は、もうすぐ見える海を想像しながら、炎天の坂道を上がっているのだ。見えないけれども、いえ、見えないからこそ立ち昇ってくるイメージがある。(『遠嶺』2000年9月号)(K.K.)