昨日見し蛇の草むらにも蛍 河野扶美

 

夕暮れだろうか。その草むらにもう蛇はいない。それでも、蛇が居たという記憶だけで、うっそうと茂った草は不穏である。そこに、蛍が仄かな光を放っている。昨日とは打って変わった風情ある風景。作者の心はこれで帳消しにされたのだろうか。いや、蛍の光は蛇の眼光のよう。草むらはまだ不穏さを保ったままかも知れない。季重なりだが、私はこの句に「蛇」でも「蛍」でもなく「草いきれ」を感じる。(『円虹』1999年8月号)(K.K.)