春は 白い卵と 白い卵の影と 富沢赤黄男

 

 

掲句は1948年作、作者は前衛俳句運動の先鋒として知られるが、この句は、当時の伝統俳句の持つ抒情性からは逸脱していたのだろうが、現代人の感性から見ると、あっけないくらい平易である。シンプルに卵と影を描きながら、春の暖かさが良く表現されている。構造は虚子の「もの置けばそこに生まれぬ秋の蔭」を想起させるが、影から立ち顕れる抒情は真逆と言ってよいほど異なる。言葉とはそういうものだから面白い。句の間の字空きは言葉が滑らかに流れて読まれる事への否定と、五七五の破調句としては読まれたくないという意志の現れであろう。(『戦後の俳句』楠本憲吉編著 1966年教養文庫 社会思想社)(K・K)