借り傘に花の雨いま街の雨 北野平八
作者は、花見に出かけて雨に遇った訳ではなさそうです。花見に出かけるなら、あらかじめ天気予報を調べて、傘を鞄に入れて置くでしょうから。訪問先で雨が降ってきたので、傘を借りたのでしょう。この句の「花」は、華やかな桜の名所ではなく、帰り道に通った桜の並木だったのでしょう。そのまま歩いているといつの間にか並木は終わり、元の雨の街を歩いている。でも、桜を見たあとは、街の風景も少し違って見えたはずです。詩人は、網膜に映った風景を見ているのではありません。そこに記憶が染みだした風景を見ているのです。(『北野平八句集』富士見書房)(北野和博)