花冷えの月の峠に過去がある 森津三郎

 

 

「月の峠と」は、ずいぶんニッチな場所を詠んだものです。作者にとって特別な記憶かもしれませんが、読者でこのシチュエーションに思い入れがある人はまずいないでしょう。いえいえ、そこが掲句の読みどころかもしれません。読み返しているうちに、くっきりと映像が浮かんできます。掲句の過去は、「月の峠の記憶で」はなく、過去という物が隠されている秘密の場所、そういう風に読むと物語が拡がってゆくのです。(『京鹿子』2003年8月号)(K.K.)