風寒し切長の目も薄暑にて 飯田龍太

 

 

はて、困った句を見つけました。誤植ではなさそうですが、この句をどう読みましょう。「風寒し」と「薄暑」では支離滅裂ですが、軽薄な斬新さを狙った前衛俳句ではない事は、句全体の落ち着いて上品な佇まいから分かります。はて。とりあえず「風寒し」のあとに切れ字をいれてみよう。この切れ字はそうとう深く切れ込んでいます。場所が別で時間も経っているのです。しかも、「切長」以降は時間をさかのぼる、つまり記憶です。そう考えると少しずつ情緒が見えてきます。もう一度整理します。昼は薄暑だったのに、夕方には冷たい風が吹いてきています。主人公は冷たい風の中で、昼(または以前)に出会った人の事を思い出しています。その人の切長の瞳や、額にうっすらと浮かんだ汗を。はて、その恋の行方は。もちろん、風寒しですから、主人公の片思いだったわけです。ああ、しんど。(『現代俳句歳時記』実業之日本社)(K.K.)