盆唄の夜風の中の男ごゑ 森澄雄

盆唄は盆踊り唄のこと。旅先での出来事であろうか。主人公は踊りの輪にはいると読むと夜風が活きてこない。この声は風にのって届く遠い声なのだ。「男ごゑ」の部分は掲句の読みどころである。わざわざ男と断っているからには意図があるに違いない。女の声に混じっていたのか、女声だと思っていたが男の声と気づいたのか。あるいは空耳の様に記憶の父の声が混じったのか。それほど、微かでとぎれとぎれの唄声だったのだ。もし「女こゑ」とすると心象がガラリと変わる俳句の不思議。(『新版俳句歳時記』角川文庫1973年)(北野和博)