七重の塔の跡なし木瓜の花 大坪景章

 

 

かつて日本の随所に建立された大型の七重の塔のうち、現存するものは一つもない。全部火災で焼失したのだ。塔は高ければ高いほど、落雷による火災の可能性が高くなる。高い塔を建て功徳により永遠の魂を得たい、自分をより権威づけたいと願う権力者の欲望は、その根本において矛盾を抱えている。作者がそう思ったがどうかは知らないが、私は「跡なし」に、作者のそんな思いが込められているように感じた。木瓜の花は、天を目指さず優しく、こじんまり咲いています。(『万象』2010年6月号)(K.K.)