二日目の汗をたたみて旅鞄 稲畑汀子

 

 

書かれている事は何んということありません。ただ事のような内容ですが、汀子の手にかかると、かくも上品で言葉の立ち姿の美しい句になってしまう。ただ事にならないのは、高い技術があるからです。まず、「二日目」という言葉で、詩に時間という奥行きを吹き込んでいます。次に、汗を「たたむ」という独自の表現により、汗を拭くという意味に重ねてハンカチを畳むという二重イメージが読者に刷り込まれるのです。最後に、「旅」という水平移動のイメージが加わり、時間軸(縦軸)と動作という現在点と移動軸(水平軸)の三つの均衡のとれた世界が完成するのです。むろん作者は理屈で作っているのではなく、感性で書いている、だから詩人なのです。(『ホトトギス』2000年6月号)(K.K.)