ねぎらわれをり秋蟬の声の中 中村汀女

最初、主人公の他にもう一人。その人が主人公をねぎらっている、と解釈していた。何度か読み返してそれが誤読だと気が付いた。掲句には主人公以外の人物は登場しない。そう考えないと、蝉の声が活きてこない。主人公はただ、ねぎらわれているのだ。炎暑も尽きた涼やかな風の世界でひとり。(『現代俳句歳時記』実業之日本社)(北野和博)