紫陽花の醸せる暗さよりの雨 桂信子

紫陽花には雨が良く似合う。暗い雨雲の下で、ほのかに灯るように咲く花。そういうイメージを私は持っていたのだが。挙句のイメージは違う。雨が降っているから庭の紫陽花あたりが暗くなるのは、理屈の世界。作者の感覚的には、紫陽花の暗さが雨を降らせている。信子は紫陽花を取り巻く庭の情景を、「暗さ」という言葉を手掛かりに、直感的に写し取っているのだ。雨の匂い、薄闇にひっそりと佇む花の艶やかさが伝わってくる。その感性、恐るべし。(『晩春』)(K.K.)